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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)44号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由の存否について判断する。

1 本願第一発明について

成立に争いのない甲第二号証(本件公報)及び甲第三号証(本件出願の昭和五九年一月一三日付け手続補正書)によると、次の<1>ないし<4>の事実が認められる。

<1> 本願第一発明は、ケーブル間の接続部分を保護し、かつ、絶縁する組立体に関するものである。(本件公報第三欄第一四行ないし第一五行。補正書第二頁7・A・Ⅲの(1)の項)

<2> 従来、この種のものとして、縦方向に切り込みを有する(又は有しない)熱収縮材料から成るスリーブ又は管が用いられていた。接続部分の耐水性及び耐圧性を維持するために、接続部分とスリーブとの間に、耐水性及び耐圧性を有する密封部分が形成されていた。しかし、このような従来例では、接続部分の修理や改造を行う場合、これを容易に開くことができず、例えば、追加ケーブルを挿入しようとする時には、接続部分全体を新しくしなければならなかつた。(本件公報第三欄第二五行ないし第四欄第一行)

<3> 本願第一発明は右欠点を解消するために、その要旨とする構成を採用した。

<4> 本願第一発明はこの構成によつて、

「本発明による接続部分被覆組立体は熱収縮スリーブの中央部分を切開くことによつて容易に開き、該接続部分の修理または改造を行うことができる。次に割り管が収縮スリーブに対して密封されていない場合には該割り管を容易に除去することができる。密封が行われている場合には必要に応じ組立体を密封材料の軟化点まで加熱することによつて密封強度を減少させることができる。修理または改造を行つた後、割り管を再び定位置に置き、かつたとえば切込みを有する囲繞型熱収縮スリーブによつて接続部分を再び密封する。このスリーブの内壁は密封材料によつて被覆されかつ前記切込みを密封して耐水―耐圧接続部分を形成するようになつている。」(本件公報第五欄第一五行ないし第二八行)

「ケーブルの接続においては、場合によつては、接続部分に新しいケーブルを追加することが必要となる。これは収縮スリーブをその全長に沿つて切込みを有するものとし、かつその全体を取外し得るようになすことにより容易に実施することができる。密封された端部区画は、これを加熱して密封化合物を軟化することによつて取外すことができる。」(本件公報第五欄第三五行ないし第四二行)という作用効果を奏する。

2 第一引用例記載の発明について

成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によると、第一引用例には、審決が認定した事項、すなわち、請求の原因三の2に記載の事項が記載されていることが認められる。

これを、第一引用例の図面、すなわち、本判決別紙図面(2)及び本訴訟で提出された第一引用例(甲第四号証)の訳文の記載に従つて記述すると、次のとおりとなる。

「ケーブル5、5の接続部分7に適合する径を有する金属管を金属シート(矩形シート)10の折り曲げにより形成(合わせ目は当然ケーブル5の軸方向になる)し、これの両端をカラー(枠リング)8で支持するとともに、右金属管とケーブル5の径との間で連続的に径を変化するスリツトを有する部材(矩形シート1)を上記カラー8に巻き付け、さらに、これら金属管とスリツトを有する部材(矩形シート1)との全長にわたりかつ各端部でケーブル5に接触するように木綿バンド(木綿巻布)及び粘着性合成樹脂テープ(ポリ塩化ビニル接着テープ)を交互に複数回巻き付けて構成した絶縁体層を設けた囲繞体。」

3 一致点の誤認の存否

(1) 再入可能の点について

本願第一発明が解決した技術的課題(前記1の<2>)について、第一引用例に明示の記載がないことについては、当事者間に争いがない。また、前掲甲第四号証によると、第一引用例には、囲繞体(組立体)が再入可能なものであることを説明した記載がないことが認められる。

しかしながら、前掲甲第四号証によると、第一引用例には、「好ましい形態において、この改良された囲繞体は、伝導体接続部を検査又は修理するために囲繞体を開く必要がある場合には、チユーブ状支持体の中央部分の両端で、囲繞体の木綿製巻布と樹脂との積層された外殻の周りを切つて外殻の中央部分を取り除き、チユーブ状支持体の中央部分から金属シート10を開いて接続部分を露出させる。囲繞体を修理する場合、金属シート10を接続部の周りに再び巻き付け、テーパー端部に至るまで封止し、綿製巻布と樹脂との積層された外殻の中央部分が元の厚さになるまで作り上げられ、囲繞部の全長にわたつて、綿製巻布と複数層の硬化性樹脂の複数被覆が施される。」(第三頁第六四行ないし第八三行)と記載されていることが認められる。

この記載によると、第一引用例記載の発明の囲繞体(組立体)においても、電線の接続部分を検査又は修理するため囲繞体(組立体)を開く必要がある場合には、右記載のような方法で接続部分を露出し、修理等を施した後、再び巻付け、封止、被覆が行われるものとされているのであるから、囲繞体(組立体)を開き、再び封止、被覆する作業工程において、廃棄される部材あるいは部分は、外殻を構成する部材だけであつて、金属シートは、その中央部分が開かれるものの、接続部分の修復時には廃棄されず、修理後封止されて再び用いられているものと解することができる。他方、前記2で判示したところによると、右金属シートは、本願第一発明における割り管に相当することが明らかであるから、第一引用例記載の発明の囲繞体も、本願第一発明の組立体と同様に、右一連の作業工程において、割り管(金属シート)の外側に配置されている外殻部材のみが廃棄され、その余の部材は再び利用されるものということができる。

そうすれば、第一引用例記載の発明も、本願第一発明と同じく、再入可能な組立体であるということができる。そして、この点において本願第一発明と第一引用例記載の発明との間に相違するところがない以上、この点の構成に基づく作用効果についても、両者の間に格別の相違があるものとは認められない。

したがつて、両者は再入可能な組立体である点で一致するとした審決の認定に誤りはない。

(2) 「少なくともスリーブの端部はその内壁に密封材料を有している」との点について

前記本願第一発明の要旨によると、「少なくともスリーブの端部はその内壁に密封材料を有している」、というのであるから、本願第一発明では、端部の内壁には、必ず密封材料が塗布されており、その他の部分の内壁にも密封材料が塗布されているスリーブと、この部分には密封材料が塗布されていないスリーブとがあることが明らかである。

他方、前掲甲第四号証によると、第一引用例の第二頁第八七行ないし第一〇八行に、

「テーパー付の両端部1のフインガー2が、隣接するケーブル被覆6を確実に包囲するのに充分な程度に相互に滑動せしめられ、次にフインガーの先端と被覆の隣部分の周りにポリ塩化ビニル接着テープ(図示せず)の単一巻を巻き付けることにより、フインガーが被覆に固定される。

自己融着性ポリエチレンテープ11の単一層が、チユーブ状支持体の一端のポリ塩化ビニル接着テープの単一巻の外側から始まつて、チユーブ状支持体の他方の端のポリ塩化ビニル接着テープの単一巻の外側端に至るまで、チユーブ状支持体の全長にわたつて、約五〇%重なり合いでその周りに巻き付けられる。次に、合成樹脂が適当な硬化剤と混合されて、樹脂及び硬化剤の被覆がチユーブ状支持体の全長の上及び支持体の両端に隣接する各ケーブル被覆6の一部分の上に塗布される。」

と記載されていることが認められる。

この記載によると、第一引用例記載の発明でも、絶縁体層(合成樹脂及び硬化剤)の、少なくとも端部の内壁に、本願発明の密封材料に相当する自己融着性ポリエチレンテープを有しているものと認められる。

そうすると、本願第一発明と第一引用例記載の発明とは、「少なくともスリーブの端部はその内壁に密封材料を有している」点で、一致するものということができる。

そして、この点において本願第一発明と第一引用例記載の発明との間に相違するところがない以上、原告主張の相違点に基づく作用効果についても、両者の間に格別の相違があるとは認められない。

したがつて、右の点で本願第一発明と第一引用例記載の発明とは一致するとした審決の認定に誤りはない。

(3) 結局、審決に原告が主張する一致点の認定の誤りは存しない。

4 相違点についての判断について

(1) 審決が、本願第一発明と第一引用例記載の発明との間の相違点について判断するに当たり、電線の接続部における絶縁処理に、内面に粘着性合成樹脂層を設けた円筒状熱収縮チユーブを使用する技術は、第二引用例で公知であると認定し、これを電線の一種である多心ケーブルの接続部に適用しようとすることは、当業者が容易に着想し得るものとした点について判断する。

(2) 成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(「電気工学ポケツトブツク」(JR版)昭和三四年一一月二五日株式会社オーム社発行)によると、同書の第九九九頁の4・1・2の項に、電線の種類として、「架空電線には、(中略)裸線のほか、各種絶縁電線およびケーブルが用いられる」と記載され、同書第一〇一頁の「SVケーブル」の項に、「変圧器二次側から電柱に沿つての低圧立上り線には、引込口配線などに多く使用されるSVケーブル(2心または3心の丸形ビニルケーブル)を使用することがある。」と記載されていることが認められる。この記載からすると、電線に、2心又は3心のケーブル、すなわち多心ケーブルが含まれることが明白である。

そして、成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)によると、第二引用例には、審決が認定した記載(前記審決の理由の要点3)があることが認められ、第二引用例に記載の熱収縮性チユーブは、電線の接続部分に用いられるものである。

したがつて、審決が、電線の接続部における絶縁処理について、第二引用例記載の技術を適用して、多心ケーブル間の接続部分についての本願第一発明の構成の進歩性を判断した点に誤りはないというべきである。

(3) なお、原告は、第二引用例に記載の熱収縮性チユーブは使い捨てのものであつて、本願第一発明の技術的課題及び作用効果を示唆するものではないと主張する。

しかしながら、審決が第二引用例を引用したのは、電線の接続部における絶縁処理に、内面に粘着性合成樹脂層を設けた円筒状熱収縮性チユーブを使用する技術が公知であることを認定するためであり、原告の主張するところの再入可能という技術的課題についてではないことが、前記審決の理由の要点から明らかである。

しかも、本願第一発明のこの再入可能という技術的課題については、第一引用例記載の発明においても存することが前記3の(1)で判示したところから明らかであり、また、同(2)で判示したところによると、本願第一発明の作用効果も、第一引用例記載の発明と格別に相違するものではないのであるから、たとえ、第二引用例に記載の熱収縮性チユーブが使い捨てのものであるとしても、審決の前記判断に誤りはないというべきである。

5 まとめ

以上みたところによれば、審決が、本願第一発明と第一引用例記載の発明との間の一致点、相違点についての認定、判断を前提として、本願第一発明の進歩性を否定したその判断に誤りはなく、原告主張の審決の取消事由はすべて理由がない。

三 結論

よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 多心ケーブル間の接続部分を保護しかつ絶縁する再入可能な組立体において、接続部分に適合する径と軸方向の割り目とを有する比較的剛直な割り管であつて、比較的剛直な支持手段により各端部で支持されている割り管と、該割り管及び該支持手段の全長にわたつて広がりかつ各端部でケーブルに接触することができる、該割り管を包囲している円筒状熱収縮スリーブと、組立体が組み立てられた時収縮されたスリーブの径が該割り管とケーブルの径の間で連続的に変化するのを確保する手段とを有して成り、少なくともスリーブの端部はその内壁に密封材料を有している組立体。

2 多心ケーブル間の接続部分を保護しかつ絶縁する再入可能な組立体において、接続部分に適合する径と軸方向の割り目とを有する比較的剛直な割り管であつて、比較的剛直な支持手段により各端部で支持されている割り管と、該管の少なくとも一方の端部周囲で隔置されて該端部を越えて軸方向に突出する比較的柔軟な複数の突起とを有して成り、該管と該突起は、突起を有する管の長さより長い円筒状熱収縮スリーブにより包囲され、該熱収縮スリーブの内壁の少なくとも端部領域に密封材料が塗布され、該スリーブが接続部分上に収縮せしめられた時に、該ケーブル上に収縮された該スリーブの端部領域が該ケーブルを密封し、該突起により、収縮されたスリーブの径が該割り管とケーブルの径の間で連続的に変化する組立体。

3 多心ケーブル間の接続部分を接続部分の補修のために再入可能な組立体により被覆する方法において、接続部分の各端部に支持手段を位置決めする段階と、該支持手段上に接続部分に適合する径と軸方向の割り目とを有する比較的剛直な割り管を位置決めする段階と、該ケーブルと該支持手段との間へ該割り管と各ケーブルの径の間に変化部分を与えるように変形可能な支持体を供給する段階と、該割り管、該支持手段及び該変形可能支持体上にそれらの全長にわたつて広がるのに充分な長さを有する円筒状熱収縮スリーブを位置決めする段階と、該スリーブを該割り管、該支持手段、該変形可能支持体及びケーブルに密接するように収縮させる段階とを有して成り、収縮されたスリーブの径が該割り管とケーブルの径の間の変形可能支持体上で連続的に変化することを特徴とする方法。

(別紙図面(1)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(1)

<省略>

別紙図面(2)

<省略>

(以下省略)

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